条件付き書式を使って、分かり易い資料を作成する
(その1)では、条件付き書式を使って会計システムから出力される財務諸表を短時間で業績検討に使える資料に変える方法を紹介しました。
今回は引き続き、条件付き書式を使って報告書を作る方法を説明します。
「損益計算書(PL)」 は業績検討の資料には適していません
財務諸表の「損益計算書(PL)」では、集計時点での「残高」しか表示されません。
過去からの「変化」や「推移」を知るためには、「過去の資料と見比べる」しか方法がないので「見る側」も「説明する側」も大変な作業になってしまいます。
Excelを使って損益計算書をもとに「集計資料」を作成する
会計システム等から出力される財務諸表(損益計算書)だけでは、集計時点での状況は分かりますが、それ以外の情報が伝わりません。
そこで、Excelを使って「目的」に合わせた資料を作成する必要があります。
平成30年5月(単月)の損益計算書(PL)
損益計算書は通常「単月」での表記になります。
単月の損益計算書では「その時点での累積の数字」しか把握することができないので、分析資料としては不十分です。
そこで最低限「前月」の損益計算書を用意することで情報を加えます。
- 前月と比べてどのくらい増減したか
当月(5月)の損益計算書
※ 分かり易くするために、簡略化した表です
当月のPLだけでは、「現時点の状況」しかわかりません。
前月(4月)の損益計算書
前月からどう変わったかを調べるために前月(4月)の損益計算書を資料として加えますが、「2枚」の資料を見比べるのでは情報が伝わりにくくなります。
平成30年5月と4月が併記された表
業績検討会の資料として、2枚(4月と5月)の資料を見比べるのは大変なので、Excelで2か月分を併記した表にすれば、情報が伝わりやすくなります。
2か月を併記することで、「1か月の間に起こった変化・変動」を表す情報が追加されました。
しかしこの「表」では「いくら変化したのか」を具体的に「数値」として知るためには電卓で計算する必要があります。
この表を「検討会の資料」に使った場合、「説明者」が事前に計算しておいた「差額」を説明したとき、「聞く側」は資料にはない「数値」を聞くことになり混乱してしまい、説明者がどの部分を説明しているのかわからなくなり混乱する原因になってしまいます。
「差額」のフィールド(列)を追加
説明しやすくするために、さらに「増減」のフィールドを追加します。
「増減のフィールド(列)」を加えることで、2カ月間の差額が分かり易くなりました。
しかし、「フィールド」を新たに加えているので資料が大きくなってしまいます。
「情報を加える」ことで「表」が大きくなってしまい「一覧性」が無くなってしまう
今回の例題のような「小さな表」では問題ありませんが、規模の大きな資料では複数ページになり「一覧性」がなくなってしまいます。
そして「一覧性を目的」にした、「要約」した別資料を新たに作ることになってしまいます。
実際の損益計算書を「併記」の形式にする
「2か月分を併記」しただけでも事業部の数が多いと「巨大な表」になってしまいます、「増減(率)」を加えるとさらに大きくなってしまいます。
これほど「巨大な資料」は1枚では印刷できず、分割して印刷したのでは意味がありません。
そして、ここまで大きくなってしまうと画面上で確認することも難しくなってしまいます。
2カ月を併記した「損益計算書(PL)」
ここまで大きな表になると、情報が多すぎて伝わりにくくなってしまいます。
そこでどうしても、情報を集約し「簡略化」した資料が必要です。
複数の資料を作成すると、「修正」が大変
「手作業」で複数の資料を作成するのは大変な作業です。
- 会計システムから出力された資料(PL)を、事業部を併記した形式に作り直す
- 「前期比較」、「増減」等のフィールドを追加する
- 「合計」や「着目したい項目」等を集約した資料を作成
さらに大変なのが、数字に誤りを「修正」する時です、1カ所を修正(変更)するだけでも同じ作業を繰り返すことになります。
数式(関数)を使って元の資料を参照する方法で作成すれば、複数の資料が連動して更新されますが、「検討会の資料」は「状況」や「要望」により資料の形態が変わることが多く、そのたびに「複雑な数式を修正」するのは大変な作業になってしまいます。
グラフを追加する
グラフを追加することで視覚情報が加わり、分かり易い(説明しやすい)資料になります。
複合集計を使って2か月分を併記したグラフ
グラフは情報を切り取ってしまう
グラフは分かり易い(説明しやすい)可視化された資料となるのですが、問題点があります。
どうしても「情報の一部分を切り取った資料」となってしまい、情報が偏ってしまいます。
問題が1つの事業所や単一の科目で発生している場合は、それに関連したグラフを作成すればよいのですが、問題が複合的な要素(要因)で発生している場合、それを表現するグラフの作成は難しくなります。
「クロス集計」や「複合集計」などの手法を用いれば複数の情報を表現することができますが、単一のグラフに複数の情報を盛り込むにも限界があり、「複数のグラフ」を造ることになってしまい資料の枚数が増えてしまいます。
たくさんの資料は「聞く側」も「説明する側」も分かりにくい
せっかく作った「たくさんの資料」も、説明を聞く側は「どの資料のどこを見ればよいのか分からない」状態に陥りやすく、また「説明する側もどう説明してよいかが分かりません」。
そのため、仕方なく「資料の説明用の資料」を作ることになり、更に資料が増えてしまい悪循環になってしまいます。
資料作成に掛けられる時間は限られている
「業績検討会議」は早期の開催を求められます、会計が月の決算を終えるまで待っていては資料作成が間に合いません。
そこで、完全に数字が固まる「仮決算の状態」で資料作成を進めることになりますが、最終的に数字が固まった時点で修正が必要になってしまいます。
そうなると大変です、会計ソフトの「数字」をエクセルを使って加工し、「たくさんの資料」を作っているのですから、全ての資料を作り直すのは大変な作業になってしまいます。
このようなやり方では、本来の目的の「数字の分析・検討」をする余裕はなく、資料を作成するだけで時間切れになってしまいます。
業績検討の本来の目的は、終わってしまった「過去の反省」をするのではなく、「問題点を見つけ」、それを「改善する方法」を探すことです。
限られた情報で短時間でまとめた資料は「悪かった部分を切り取ってまとめる」のが精いっぱいで、その報告内容は悪かった部分の「反省」に終始することになります。
「収入」と「支出」や「事業部別」に分かれている資料は分かりにくい
説明する側の会計・経理の担当者は財務諸表(PL)をもとに説明するので、「収支」を「収入」と「支出」の相関関係で説明しようとします。
しかし「聞く側の人」は「収入」と「支出」ではなく、「儲け」と「損」のように考えるのが実情です。
「収支(儲け)」を「収入」と「支出」の差額として考えるのではなく、「儲けは儲け」、「損は損」と考える傾向があるので説明が難しくなります。
儲け(収支)が減った原因を説明する際に、収入と支出の相関関係で説明しようとすると「今は、儲け(収入)の話をしているのだから支出の話は分けて説明してください・・」となってしまいます。
それは資料の形にも問題があります。
「収入」と「支出」、「総合計」と「各事業部ごとの合計」などを1枚の資料にまとめることは難しいので、どうしても複数の資料に別れてしまいます。
複数に別れた資料で下記の内容を説明すると、確かに分かりにくいと思います。
- 「収入が増えたのはA事業部とC事業部とD事業部が増えたのが要因です」
- 「しかし若干ではありますがE事業部とF事業部で収入が減少しています」
- 「支出が増えたのはB事業部で突発事項が発生したのが原因です」
- 「以上の内容で全体の収支は、前月と同様になりました」
「減少の理由」を説明するには、どうしても「収入」だけに焦点を当てた資料になってしまいます。
そのことが余計に「収入と支出」での考え方が理解しにくい原因となります。
できる限り、「収入・支出を含めた全体」を見渡せる資料を作成することが「収支」の考えを説明するためには大切です。
「条件付き書式」を使って、損益計算書を「業績検討のための資料」にする
業績検討資料を短時間で作成する (その1)でも紹介したように、条件付き書式を使えば、会計ソフトから出力された資料をそのまま使って「2期(月)を比較した可視化された資料」を作成することができます。
「5月」と別シートの「4月」を比較して条件付き書式で「色」を付けた資料(イメージ)
5月の数字が4月と比較して、一定以上増減している数字に色を付けています。
こうすれば「1枚」の資料で数字の増減を把握することができます。
大きな資料では「色で情報を表現」する方法はさらに有効です
事業部全体のような大きな資料でも「一目で状況をつかむ」ことができます。
このように資料を「1枚」にまとめることにより、事業部相互の関係性も分かりやすくなります。
この資料で分かるのは、「前期」に比べて一定以上の増減があった項目です。
今回の条件付き書式は「額」を条件にしていますが、「率」を条件にすることで事業総額の小さな事業部で、「額」的には少ない変化でも事業に与える「影響」を表現することもできます。
「小さな増減」の積み重ねでの「変化」を説明するのは難しい
分析する際はどうしても「変化の大きな部分に着目」しその点についてのみ調査・分析し「変化の小さな部分」は見過ごしてしまいがちです。
しかし、本当に注意すべきなのは突発的なマイナス100万よりも、恒常的に発生するマイナス10万円の方なのです。
大きな増減には、たいてい「明確な理由」があります
大きな増減が発生する場合、ほとんどの場合分かりやすい「理由」が存在します。
そして、明確な理由が分かれば解決策は比較的簡単に分かります。
問題なのは、気付きにくい小さな増減なのです。
2期比較の資料を作成して「差額を表示」しても小さな数字にはなかなか気づきません。
そして現実的な問題は、そのような小さな増減は説明する側は「説明しづらい」し、聞く側は「理解しにくい」ことです。
担当者は全体の数字を把握しているので、見過ごしてはいけない小さな増減に気づくことができます。
しかし、それを会議で説明すると「聞く側」は全体を把握していないので、「多数ある小さな増減」の中でどうしてその点にだけこだわるのかが理解することができません。
そして、「その点にこだわるなら、ここはどうなのか」と会議が紛糾してしまいます。
そこで全体での関連性を説明しようにも情報が複数に別れてしまった資料では説明するのが困難です。
このような時に、条件付き書式を使って事業部全体の状況を把握できる資料を使えば説明しやすくまた、聞く側も理解しやすくなります。
せっかく大変な思いをして月次単位で詳細な資料を作成し、のちに問題になりそうな「小さな芽」を見つけたにもかかわらず、今度はそれを「伝える」という大変な作業があるのです。
このような時に、大規模な財務諸表に一定のルールで「色」を付けた「災害のハザードマップ」のような資料を作って説明すればかなり分かり易く伝えることができます。
決算書の情報を「ハザードマップ」のように表現する - Excelの機能を活用して、事務作業の省力化や経営分析をする
「条件付き書式」を使った資料の良いところは、
- 最小限のフィールド(列)で情報を「可視化」できる
- 全体の状況が「一覧」できるので、相互関係を把握(説明)することができる
- 会計システムから出てくる「データ」に基本的に手を加えていないので、「数字」が変わっても自動的に修正される
- 条件「1割以上減少した部分を「赤」く塗りつぶす」を簡単な操作で「0.9割以上減少すれば・・・」に変更できる。
この方法で作成した資料の良い点は、全体を見渡せることにより、
- 「この事業部の総計がマイナスなのは、「ここ」と「ここ」が原因」
- 「収支は増加しているが、それは支出が減少しているのが要因で、収入自体は減少している」
- 「全体としては増加しているが、それは特定の事業所が好調なのが要因で、複数の事業所でマイナスが出ている」
- 「この部分で突発的な大きな支出があったのが原因で、全体がマイナスになってしまった」
このように「収支」や「事業所単位」での問題を「分析するための資料」が、1枚(もしくは数枚)の資料で簡単にできることです。
この分析を通常の「資料(PL)」でやろうとすれば、プリントアウトした資料に「マーカーで色を付けたり」、いくつもの資料を作成する必要があります。
そして最大の問題は、それだけの時間をかけた資料も「修正」があれば全部やり直しになってしまいます。
複雑な内容の資料であればあるほど、その作業は大変なものになるでしょう。
もし「検討会議」が毎月あるのであれば、それが毎月続くことになります。
- 資料作成に1週間(5日間)
- 印刷・編纂に1~2日
- 分析に1~2日
- 会議当日
最大で10日間となり、1カ月の大半がこの作業に忙殺されてしまいます。
決算期、役員会、年末年始などがあれば大変です。
「半期の決算」とか「年次の決算」の時にはどうしても、詳細な資料を作成する必要があると思います。
それ以外の時は、効率よく必要最小限の資料を作成して「過去の反省」のための資料作成ではなく「将来を予測」「改善案を模索」する資料を作成してください。
- 条件付き書式を使って、分かり易い資料を作成する